その間に座れる可能性はほぼ、ないだろう。
僕はさっそく回りの人たちの観察を始めた。
まず、頭上の荷台に荷物を置いている人は、無いな。
すぐに降りるつもりなら、わざわざ高い荷台に荷物を置いたりなんかするはずが無い。
自分の足元か、膝の上に置いているはずだ。
その人たちは削除だな。ひとまず途中下車の対象から外そう。
次に爆睡しているオヤジ。
さすがに朝の通勤時間と重なっているだけあってサラリーマンの数が多い。
しかし、途中で降りる気配も起きる気配もまったく感じない。
いや、それどころか生きているオーラすら感じさせない人までいる・・・
世のサラリーマン族のオジサマ方はたいそうお疲れのご様子で、こりゃこのまま三ノ宮まで直行だな。
この人たちもターゲットから外そう。
ゆらゆらと、うたた寝しているOLのお姉さん方も同じく除外だ。
仲良く三ノ宮までいってらっしゃい。
さて、あと目に付くのはケータイをいじっている人とゲームに熱中している少年ってとこか。
ケータイをいじっている人たちはフットワークが軽そうなので除外することはできないが、今流行りの携帯ゲーム機『DSP』に熱中しているあの少年はこの際ターゲットから外そう。
あれだけゲームに熱中していて、いきなり電車を降りるとは思えない。
降りる少し前に必ず電源を切るか、もしくはゲーム機のフタを閉じるはずだ。
っと、そんな事を考えている間に電車は立花駅を過ぎ、まもなく甲子園口駅に到着しようとしている。
あと1駅の間に今挙げた条件にあてはまる人たちを除外して、西宮で降りそうな人を見つけ出し、その人の前で待機しておかなければ、座席を確保することができない。
さぁ、集中しろ。よく観察するんだ。西宮で降りるのはいったい誰だ!?
――――――つづく