ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -sowa6
クローバー―荷物を荷台に置いていない。

 ―寝ていない。

 ―ゲームをしていない。

 ―そして、主婦じゃない。


目の前の男は見事にこれらの条件をクリア―している。

いや、それどころかさっきからしきりに振り返っては窓の外を気にしたり、どこかそわそわと落ち着かない。

おそらくこの路線に乗り慣れていないのだろう。

自分の降りる駅を気にしているのだ。

まさにうってつけのターゲットじゃないか。

この男なら芦屋といわず、次のさくら夙川駅で降りてもおかしくはない。


いいぞ、ツイてる。今日の蟹座は星4つだ。

5つじゃないのは、さっき西宮で座れなかったから―――


僕はこの男1人にターゲットを絞り、彼が降りるのを待つ事にした。


どうやらサラリーマンではなさそうだ。

白いシャツに茶系のジャケットを羽織っている。が、ネクタイは締めていない。

だいいち、ビジネスカバンらしきものすら持っていない。30代後半ぐらいだろうか、ヒゲもきちんと剃り残しがなく髪も短くラフにまとめている。

身なりからしても無職という事はなさそうだ。


いったい何の仕事をしている人だろう―――


男性の職業というと、とっさにサラリーマンとしか出てこない自分のボキャブラリーの無さが悲しくなる。

じゃあ将来自分がなりたい職業は?と訊かれても、少しでもいい大学を出て少しでもいい企業に就職する。

つまりサラリーマンか。

そうだサラリーマンだ。

でも人にサラリーマンになりたいのかと訊かれると、絶対『ウン』とは言いたくない。

だからといってなりたい職業がまったく思い浮かばない。


俳優、ミュージシャン、スポーツ選手・・・

どれも現実離れしていて口にするのも恥ずかしくなる。


パン屋、魚屋、八百屋、花屋・・・

どうすればなれるのか、まったく思いつかない。

パンが好きならなれるのか?魚が好きなら、野菜が好きなら、花を愛する心があればなれるものなのだろうか。

そのお店を開く為の資金はいったいどこから出せばいいんだ。

頑張ってバイトして稼げばいいのだろうか。僕の場合、フリーターで終わってしまいそうだ。


コンビニの店長、ファミレスの店長、ファーストフード店の店長・・・

フランチャイズの雇われ店長なら、普段ネクタイを締めていないって言うだけでサラリーマンとなにが違うというのか。


それにしても、もう高三の夏だというのにまだ自分の将来のビジョンすら見えぬまま進路も決めかねている僕はなんて情けないんだ。


―――って、朝っぱらからなにナーバスになってるんだか。

将来なんて、なるようになるし、なるようにしかならないもんだ。

今はテニスの試合と期末試験に集中しよう。

それと、・・・目の前の男だ。


電車は間もなくさくら夙川駅に着く。

この男がどんな仕事をしているのか知る由もないが、とっとと次の駅で降りて欲しい。

今はただそう願うだけだ。

だって僕はもうヘトヘトなんだ。


―――さくら夙川ぁ、さくら夙川ぁ―――


アナウンスとともに、電車はゆっくりと駅のプラットホームに到着した。クローバー


                                          ――――――つづく

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※第7話のUpが遅れてごめんねにひひ汗