ほっと、break ~ 小説にトライ!編 -sowa7

クローバーさくら夙川駅はここ数年前にできた比較的新しい駅で、なんでも西宮-芦屋間の距離がちょっと長いから・・・っていうだけの理由で作られたらしい。

実際、駅をおりたところで周りにはなにもない。

現在この駅を利用している人達のほとんどはもともと快速の停まる西宮か芦屋駅を利用していた人達で、各駅停車しか停まらないこの駅を利用する人がはたしてどれだけいるのか。


もしかしたら目の前の男が降りやしないかとさっきまでは少し期待していたのだが、当の本人は窓の外を気にする様子もなくさっきからじっとうつむいたまま動かなくなってしまった。


ホームで電車を待つ人もまばらだ。

この駅から三宮か大阪方面に向かう人は確かにいるだろう。が、こんな朝早くからこの駅に向かう人は限りなく少ないはずだ。


プシューッ


電車のドアが開いた。

ホームで電車を待っていた数名の客が乗り込んでくる。

しかし、案の定誰も降りる気配はない。

目の前の男もうつむいたままだ。


ほら、やっぱり。桜の花咲く季節ならばともかく、何もないこんな時期にここで降りる奴なんている訳が―――


っとその時、僕の斜め後ろの方が少しざわついた。

何気に振り返ってみると、吊り革を持って立っている人の間から突然、狐につままれたような表情をした男が1人ひょっこり飛び出してきた。


この男は―――


そうだ。この男はさっきまでそこで爆睡していたサラリーマンおやじじゃないか!

なぜ突然起きたのだ?

あれだけ爆睡していて急に起きれるはずがない。

それがまるで何かに条件反射したかのように飛び起きて・・・


条件反射――


そうか、わかったぞ。

このおやじ、奴はここで毎日降りてるんだ。

どんな理由か、何が目的かはわからないが、奴は毎朝同じ時間の同じ電車に乗り、同じこの駅で降りているんだ。

だからたとえどれだけ眠り込んでいたとしても、車内アナウンスや電車の揺れ具合で、どのタイミングで起きればいいのか身体で覚えているんだ。


くそぅ―――


そのことを事前に知っていれば、そしてあの顔を覚えていれば、間違いなく僕は奴の座っている席の前に立っていたものを。

しかし、いくら悔しがっても始まらない。知らなかったのだから。

でもこの顔は覚えておこう。次からは使えそうだ。


勢いよく飛び起きたこのサラリーマンおやじは、車両の真ん中で一瞬ハタと立ち止まり2、3度キョロキョロとあたりを見回したかと思うと、今にも閉まりかけのドアからスルリとすり抜けて電車を降りて行ってしまった。


その流れるような身のこなしは今までそこで眠っていた者とは思えないほど華麗で、それはまるでジャッキーチェンの酔拳のようであり、それはまるで北斗神拳次兄トキのようであり、それはまるで水中に潜む鮭を腕の一振りで川岸に打ち上げる熊のようであった。


もともとさくら夙川駅にはあまり期待していない。勝負はこれからだ!―――


電車が動き出すと同時に目の前の男がゆっくりと振り返り、窓の外へ目をやった。


みていろ、次の芦屋駅で必ず決着をつけてやる!―――


目の前でそわそわと少しせわしなく辺りをうかがうこの男に、僕はいまだかつてない程にふつふつと胸の奥底から止めどなく湧き上がる激しく熱い闘志をぶつけずにはいられなかった。


                                          ――――――つづく

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※第8話UPしました!!ニコニコ

遅れてどうもすみませんしょぼん