――六甲道、六甲道ぃぃ~、お降りになる方を先にお通し下さい――
駅のアナウンスがホームに響きわたる。
着いた。
なんか、逆にどっと疲れた気がする。
発車する電車の窓から、振り返って窓の外を眺める あの男の顔が見える。
いったいなんだったんだ、あの男は―――
結局、芦屋では降りなかった。
次の甲南山手でも、その次の摂津本山でも、住吉でも、そしてこの六甲道でもあの男は降りなかった。
ただそわそわと、不安げにあたりを見回すばかりだった。
大失敗だったな。まったく今朝はついてない―――
重い身体を引きずって、ホームから駅の改札へ向かおうとしたところで僕は急に呼び止められた。
「せんぱ~ぃ、大野先輩!」
声のした方を振り返ると、うちの制服を着た女生徒が1人、こっちに向かって走ってくるのが見える。
「せんぱ~ぃ、ちょっと待って下さいよォ~!」
息を切らせて駆け寄るこの娘は・・・えーっと、誰だっけ?
「お、おはよう。」
とりあえず笑顔であいさつしたものの、名前がまったく思い浮かばない。
「おはようございます、センパイ! 1年5組、根岸ひろみです。」
ん?自己紹介?なんで?
もしかして初対面?いやいや、そんなはずはない。
だったらこのフレンドリーさの理由がつかない。
「もー、センパイったら急に電車降りちゃうんだから私もうビックリしちゃって、急いで追いかけて来たんですよー。」
「えっ、だってここ、学校のある六甲道だぜ。」
「あっ、なんだ、そっか・・・ てへへ」
変な娘だ。が、ちょっと可愛いな。
まぁ、向こうは1年生みたいだし、僕が知らなくてもクラブの後輩とかの知り合いで僕の事は知っているのかもしれない。
今も通学にはまだ慣れてなくてうっかり電車を乗り越しそうになったところ、学校で見かけた僕の姿を見つけてあわてて自分も電車を降りてきたのだろう。
それにしても朝からこんな可愛い娘に声を掛けられるなんて、今日の僕はなんだかツイてるーっ!―――
――――――つづく
※作者都合により更新が4/18まで1週間伸びてしまいそうです・・・
申し訳ないです。
最終回まであと2回(たぶん)
次回をお楽しみに